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ギターの特性を活かした作曲技法

はじめに

ギターをはじめとして、楽器にはそれぞれ特性があり、そのために作曲された楽曲にも自ずと特徴が現れます。

今回は、私が特に親しんでいる楽器であるギターについて、その特性を活かした作曲技法とはどのようなものかを、私なりに書いてみたいと思います。

音楽は変化によって伝わる

音楽とはなにか。それについては一言で語りつくせるものではありませんが、一つ、確かなこととして、音楽とは、「変化によって何かを伝えるものである」と言えるのではないでしょうか。

一般的な西洋音楽をイメージしてください。『ハレルヤ』でも『運命』でも、何でもよいです。曲が進むにつれて、音の高さが変化します。大きさも変化するでしょう。メロディーの背景となる和音も変化します。

音楽は調性の旅であるというような話が、ホロヴィッツとサイードの対談であったと思いますが、これはまさに、主調を起点として色々な調を経て、またもとの調に戻ってくるという、音楽の変化の中で、調性の変化に光を当てた言葉であると言えるでしょう。

極端な例では、音が1音も発せられなくても音楽は聴衆になんらかの変化を伝えます。音楽が始まる。これだけで、音楽が始まる前と後では音の聞こえ方に変化が生じると思います。例として、ジョン・ケージの『4分33秒』を挙げておきます。

ここでは、音楽表現において、「変化」というのが重要なファクターであるということだけ押さえておいていただければと思います。

音楽に変化をもたらす要素

では、音楽に変化をもたらす要素にはどのようなものがあるでしょうか。

これには、大きく分けて、楽譜に表される音楽理論的なものと、楽譜には表現しきれない楽器の特性によるものという2つがあると、私は考えています。

音楽理論的な純粋な音楽性

1つめの楽譜に表される音楽理論的なものについて説明します。このように言うと語弊があるかもしれませんが、純粋な音楽性とでも言えばよいでしょうか。

『ハレルヤ』や『運命』の話をしたときに出てきた、音の高さや大きさ、和音などが、このグループに分類されます。これらは、ピアノで演奏しようが、オーケストラで演奏しようが、受ける印象はもちろん変わりますが、曲がもともと持っている核となる部分には変わりがありません。楽譜でpからfへのクレッシェンドと表現されているものは、ピアノで演奏しても、オーケストラで演奏してもpからfへのクレッシェンドなのです。

楽器に固有の性質

一方で、楽器に固有の性質がもたらす変化というものがあります。これは、ときに偶発的に発生し、ときには奏者が意図的にもたらす変化で、楽譜には表現しきれないものです。楽器がもつ癖とも言えるものです(同じピアノという楽器でも個体差がありますが、ここではそうではなく、ピアノとヴァイオリンというようにそれぞれの楽器が個体差以前に持っている根本的な特徴について取り上げます)。

 

例えばピアノ。ある1音を同じ音量、同じタッチで弾くとします。ペダルを踏まずに弾くのとペダルを踏んでから弾くのでは、音の響き方が変わってくるのではないでしょうか。

これは、ペダルを踏んだ場合、弾いた1音以外の音の弦が、共鳴弦として作用して、その倍音が聞こえてくるためです。

 

例えばヴァイオリン。ヴァイオリンには、弓で弦を擦って音を出すという特徴があります。音の立ち上がりの瞬間を、アタック音と言うことがありますが、ヴァイオリンのアタック音は他楽器にはない独特のものです。ピアノと同様ですが、今度は連続した2音を演奏するのをイメージしてください。2音をスラーで弾くのと、2音目では弓を返して弾くのでは、2音目のアタック音がまったく異なってくるのではないでしょうか。

 

続いてギターについて、こちらは少し詳しく見ていきます。ギターは、同じ高さの音を違う弦で演奏できる、同音異弦による演奏が可能が楽器です。例えば2弦の5フレットの音と1弦の開放弦の音は同じ高さの音ですが、音質は異なります。弦による音質の違いは、太さや張力、素材の違いによってもたらされます。

また、同じ弦であっても開放弦の音はフレットを押さえて弾いた音とは違った印象をあたえます。これは、フレット棒が金属でできていることに対して開放弦の時弦の支点となるナットは象牙などでできているという素材の違いによるものだと私は考えています(ナットには三味線の「さわり」に似た性質があると思います)。

他にも、同じ弦、同じ高さの音であっても、弦を弾く位置によっても音質が変わります。これは、弾く位置によって鳴りやすい倍音が変化するというのと、指にかかる力が変わることでアタック音の鋭さが変わるためだと考えられます。

さらに、ギターにはピアノでペダルを踏んだときのような共鳴弦の性質があります。ある音を弾いたとき、弾いた以外の弦(未使用の弦)の倍音がその音を含んでいたら、その倍音が共鳴によって鳴るということです。この現象は、未使用の弦が低音の開放弦であった場合、特に顕著に現れます。

楽器の特性を活かした音楽上の特徴

ここまで、音楽に変化をもたらす要素のうち、2つ目の、楽器の特性によるものを見てきました。ここで、変化ということから少し話が逸れるのですが、楽器の特性が音楽理論的な純粋な音楽性(音楽に変化をもたらす要素の1つ目で説明したもの)にも影響を与えるということに触れたいと思います。

 

ピアノの曲で良く出てくる伴奏形として、アルベルティ・バスがあります。これは人にもよるでしょうが、ギターでは弾きやすい音形ではなく、実際、ギター曲で見ることは多くありません。このように、(奏法も含めた)楽器の特性が、その楽器のために作られた楽曲の内容にも影響を与えうるのです。

 

ギターの場合だと、開放弦を活かすことにより、普通ではありえないような和音が連続するような曲があります。また、左手の形を変えずに押さえるフレットをずらすという、フラメンコで見られるような技法がありますが、これなどは音楽理論上は平行8度となるので避けるべきものとされています。しかしいずれも、ギターで演奏されると不思議ときれいに違和感なく聞こえてしまうものなのです。

ギターの特性を活かした作曲技法

ここまで、音楽は根本的に変化を持っているものであり、楽譜上の変化以外に、楽器の特性による変化があるということ。そして、楽器の特性による変化が、作曲にも影響を与えているということを説明しました。ここからは、ギター向けの作曲にしぼって話をしていきます。

 

ギターの特性を活かした作曲技法極めた作曲家が、アグスティン・バリオスとエイトール・ヴィラ=ロボスの2人だと、私は考えています。

 

バリオスの作品で最も有名なものが『大聖堂』です。第3楽章の音形も特徴的でギターの奏法を理解しているからこそのものだと思いますが(バリオスは優れたギタリストでもありました)、ギターの特性を活かしているという意味では第1楽章が白眉であると思います。

ここで出てくるアルペジオは、開放弦を巧みに織り交ぜるようになっています。さらに、この曲はロ短調で、主音がシの音になります。多用される2弦の開放弦がこのシの音であり、さらに、この音は6弦の開放弦の倍音に含まれているのです。つまり、6弦が未使用のとき、前述した低音開放弦が共鳴弦として利用される状態になるというわけです。

 

次にヴィラ=ロボスですが、彼もギターを弾くことができました。ギターのための練習曲を12曲作っているのですが、第1番での高音開放弦の使い方や、第12番での和声は、正にギター固有といった感じがします。同一の弦を(音楽用語の)ドローンのように鳴らしたまま、和声が移り変わっていくので、その弦の音は和声音になったり非和声音になったりするのですが、それで楽曲全体のバランスを崩すことなく成り立っている。これはとてつもないことだと思います。

まとめ

出される音の音質や響きが弦や調によって異なるというギターが持つ特性は、それを考慮しない楽曲(ギターに適さない調性のピアノ曲を、そのままの調性でギターで弾く場合など)においては音楽性と特性が一致せず、音楽表現上の弱点となります。一方で、それを考慮して作曲された楽曲においては、音楽性と楽器の特性が一致することにより、音楽表現上、より大きな変化をもたらす武器となります。

特性をあえて前面に出すかどうかは、演奏する楽曲によって、ケースバイケースとなるでしょう。

※伝統的な工法を用いて作られた楽器は特性が音に現れやすく、近年の新しい工法による楽器は特性が現れにくくどの音も同様の音が作りやすいという特徴があると思いますが、それは別のお話・・・

 

ギター曲を演奏する上では、音楽理論的な、楽譜に表現されている表面的なことを見るだけではなく、その裏に、楽器の特性を活かす意図が隠されていないかどうかを意識すると、表現に深みが増すのではないかと思います。

そして、ギター曲を作曲する場合には、単にすべての音がギターであればよいというのではなく、同じ楽曲内で「この調は抜けがよい晴れやかな感じだが、この調はくすんだ感じにしたい」というような欲求を楽器の特性と組み合わせることにより、ギターにしか作れない音楽が生まれるのではないかと思います。

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